ポルキーニョは、キノコを採りに森にやってきました。バミットは絵を描きに森にやってきました。

「きれいだなあ」

 季節が秋になったので、森の中の木々はたくさんの色を付けた葉で森を飾っていました。その中を歩いていくだけで、なんだか楽しい気分になってきます。ポルキーニョは、きれいな落ち葉の上でスキップを始めるのでした。

 フィロの家の庭に咲く花たちもきれいですが、紅葉した森の色は、やわらかく、あたたかく、また違った美しさでした。

 一緒に来たバミットは、気に入った場所にシートを敷いて秋の景色を描き始めていました。シートも画板も絵の道具も、ポルキーニョが全部カゴに入れて運んできてあげました。小さなバミットは、遠くで絵を描きたい時、自分で運べない画材をいつも誰かに運んでもらっていました。フワンの宝箱に入れてもらうことが多いのですが、今日はポルキーニョがキノコ採りに行くことを聞いて着いてきたのです。

 ポルキーニョは、まずは自分の目的であるキノコ集めを始めました。自分勝手なバミットが、ドングリもたくさん拾っておいてくれと言ったのですが、それは後回しです。

 ポルキーニョはバミットの自分勝手なところが苦手でしたが、今日のキノコ採りのために上手な絵で(おいしいキノコリスト)を作ってくれたので、特別にドングリも集めてあげる予定です。

 キノコは木の根元や見えにくい下草の中などでよく見つかるので、ポルキーニョは枯れ葉をかき分けながら、あちらこちらを探してみました。背負ってきた大きなカゴがいっぱいになるくらいに採りたいものです。

 ほどなくキノコが見つかったので、さっそくポルキーニョは(おいしいキノコリスト)を取り出そうとポケットに手を入れました。すると、ポケットに入れていたビー玉に手が触れました。

 魔法のビー玉です。

 フィロに言われて、何の魔法がかかっているのか調べてみることにしましたが、どうしたらよいのかもわからず、とりあえず出かける時はポケットに入れていたのです。

 ポルキーニョはポケットからビー玉を取り出すと、目の前で眺めてみました。白い模様が入っているガラスに、森の紅葉が移り込みます。ですが、魔法のようなことは何も起こりませんでした。

 キノコ集めに戻ることにします。ポルキーニョはビー玉をポケットにしまうと、(おいしいキノコリスト)を開いて目の前のキノコと見比べました。リストにはキノコの種類が上手な絵と文字で書いてあるので、すぐに食べられるキノコかどうか調べることができました。とても、役に立つリストです。

「よかった。これは大丈夫なキノコだ」

(おいしいキノコリスト)を確認したポルキーニョは、キノコに手を伸ばしました。大きめキノコと、小さめなキノコが並んでいましたが、まずは大きめなキノコを選びます。

 ところが、ふいに邪魔が入りました。なんと、どこからか妖精が現れてキノコ

の上に座り込んだのです。

「これは、私のイスなんだから、採ったらだめ」

 妖精は、キノコの上で足をばたつかせながら笑っています。小さな妖精がキノコに座ると、確かにちょうどよいイスのようでした。

 妖精なんて本でしか見たことがなかったポルキーニョは、とても驚きました。背中に羽根の付いた小さな小さな妖精が、しゃべっています。笑っています。

 珍しさから妖精をじっと見つめていたポルキーニョですが、どうにか気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと話しかけました。

「こんにちは、妖精さん。おいら、キノコを採りに来たんだ。でも、君のイスなのなら、そのキノコは諦めるよ。他を探すね」

 キノコを集め終わったあとにフィロの家に行く予定なので、ポルキーニョは妖精に出会ったことをフィロに話してあげようと思いました。まだ胸がどきどきしています。なんてすばらしい体験なのでしょう。

 ポルキーニョは立ち上がると、他のキノコを探すことにしました。そして、次に見つけたキノコも大きめな食べられる種類のキノコでした。

 ところが、ポルキーニョがキノコに手を伸ばした途端、また妖精が飛んで来てキノコの上に座りました。

「これは、私のイスなの。あなたも、座りたいの? でも、無理ね。あなたは大きいもの」

 キノコに座るつもりはないポルキーニョでしたが、困ってしまいました。せっかく見つけたおいしそうなキノコが、二つとも採れませんでした。この森には毎年キノコを採りにくるのですが、こんな経験は初めてでした。

「君のイスは、いくつあるんだい? さっきのイスは使わないの?」

「さっきのって、なあに」

「あっ」

 ポルキーニョは、気が付きました。目の前の妖精は、似ていますがさっきの妖精とは違うのです。

「君は別の妖精さんなんだね。わかった、おいら別のキノコを探すね」

  妖精をどかしてまで目の前のキノコを採ろうとは思わないので、ポルキーニョはさらに他のキノコを探し始めました。

 ですが、そのあとも大きめなキノコを採ろうとすると必ず妖精が座っているものですから、ポルキーニョは仕方なく小さめなキノコを採ることしかできませんでした。これでは、なかなかカゴがいっぱいになりません。

 たまたま妖精たちの住まいに近い場所だったのかと思い、ポルキーニョは森の中を移動して、少し離れたあたりを探し始めましたが、なぜかそこにも妖精たちが現れました。

 何度も同じことが繰り返されると、ポルキーニョも「もしかして」と思うようになりました。

「あーあ。もう、キノコはいらないや。おいら、ここで昼寝する」

 ポルキーニョは、背負っていたカゴを放り出すと、枯れ葉が散らばる地面に寝ころびました。すると、妖精たちの様子が変わりました。座っていたキノコの上に立ち上がると、ポルキーニョの様子をみんなで眺めては首を傾げます。

「寝ちゃったのかしら?」

「つまらないわ」

「おもしろくないわ」

 小さなささやき声が聞こえてきます。ポルキーニョは目をつぶりながら、それを聞いていました。やはり妖精のいたずらだったのです。フィロから借りて読んだ本に、妖精はいたずら好きだと書いてあったのを思い出したのです。そして、妖精のいたずらがしつこいときは、知らんぷりすればよいのだということも。

 秋の森でじっとしていると、風で枝から飛ばされた葉が、空中を舞ってポルキーニョの上にも落ちてきました。このまま寝ていたら、いつか落ち葉に埋もれてしまうのではないかと思っていると、また妖精たちの声が聞こえてきました。

「えっ、ドングリ?」

「ドングリを持って行けばいいのね」

「楽しそう!」

 何のことかわかりませんでしたが、ポルキーニョが薄目を開けると、妖精たちがみんなで同じ方向に飛んでいくのが見えました。中には、ドングリを抱えている妖精もいます。なんにせよ、妖精はいなくなったのです。

 ポルキーニョは、キノコを採ってみました。大丈夫です。もう、妖精はいたずらをしてきません。

「さっ、がんばるぞ」

 カゴいっぱいにキノコを集めたら、フィロにも分けてあげるつもりです。いつも、おいしいケーキなどをごちそうになっているので、一番大きくておいしそうなキノコをプレゼントしようと、ポルキーニョは決めていました。

 キノコの中には食べられない種類もありますが、選び方はバミットが作ってくれた(おいしいキノコリスト)があるので安心です。

 

   ◇◆◇

 

「そろそろ、ドングリも集めるかな」

 ポルキーニョは、キノコでいっぱいになったカゴを背負いながら呟きました。妖精たちに邪魔をされてキノコ採りに時間がかかってしまいました。ドングリは、バミットのいる場所に向かいながら拾うことにします。

「あっ」

 妖精です。ポルキーニョはすばやく近くのやぶに隠れると、そっと妖精を観察しました。どんぐりを集めることまで、邪魔をされては困ります。

 妖精は地面の近くをしばらく飛び回っていましたが、ふいに地面に降りると落ち葉をかき分けて何かを拾ったようでした。それは、ドングリでした。

 妖精が、ドングリを抱えながら飛んで行きます。ポルキーニョが行こうとしていた方向と同じです。バミットが絵を描いているはずです。

 妖精が持っていくドングリとバミットが関係していそうなことは、ポルキーニョにも何となく想像できました。妖精が、またいたずらをしているのかもしれません。

 別の妖精が飛んできて、ドングリを拾っていきます。ポルキーニョは、こっそり妖精のあとを追いかけてみました。すると、やはりバミットのそばに妖精たちが集まっていました。正確に言うと、妖精たちはドングリを抱えながら一列に並んでいました。すごい人数です。ポルキーニョがカゴいっぱいに集めたキノコの数よりもずっと多い数かもしれません。

 さらに、ポルキーニョには妖精がバミットと踊っているように見えました。小さなバミットが、同じくらいの身長の妖精たちと順番にダンスをしているのです。

 ドングリを渡してバミットとダンスをした妖精が次の妖精と入れ代わり、その妖精もドングリを渡して踊り始めます。やぶに隠れているポルキーニョに気が付いた妖精もいましたが、もうポルキーニョには興味がないようでした。

「おーい、バミット」

 ポルキーニョは、やぶの中から顔だけ覗かせると、思い切ってバミットを呼びました。バミットはすぐに気が付きましたが、ダンスはやめません。

「ポル。また、あとで来てくれ。妖精たちからもらったドングリを持って帰ってほしいんだ」

 バミットの横には、すでに踊り終わった妖精たちからもらったドングリが山になっていました。さらに踊れば、とてもたくさんのドングリがあつまることでしょう。

「それはいいけどさ、大丈夫なの?」

「なにが?」

 妖精にいたずらされたばかりのポルキーニョが心配しますが、バミットは困っていないようでした。

「じゃあ、またあとで、来るからね」

「よろしく」

 ポルキーニョは、バミットと別れるとフィロの家に向かいました。

 

   ◇◆◇

 

「今日は、モンブランケーキよ。さあ、召し上がれ」

 フィロが紅茶とケーキを用意して待っていてくれたので、ポルキーニョはモンブランケーキをおいしく味わい、紅茶を飲んでくつろぎながらフィロに森での出来事を話し始めました。

「まあ、それは大変だったわね」

「うん、おいら妖精と話をするなんて初めてだったから丁寧に話してみたのに、まさかいたずらされるなんて思わなかったよ」

「妖精には、あまり悪気はないのよ。ただ、楽しいからやっているだけなのよね。だから、飽きちゃえば、どこかへ行っちゃうわけ」

「今は、バミットとダンスをしているはずなんだけど。妖精が飽きない場合はどうするの?」

「自分から、やめればいいのよ。やめたからって、妖精は怒ったりはしないけど、つまらない顔をして文句はいうかもね」

「ふーん。自分勝手なバミットみたいだ」

 ポルキーニョのせりふに、フィロは肩をすくめただけでした。バミットが自分勝手に威張るのは、ポルキーニョに対してだけなのです。

「フィロにキノコをあげるよ。おいしそうなのをたくさんあげるね。フィロにはいつもお菓子をごちそうになっているから、おいらからのお礼です」

 カゴの中には、森で採ってきたたくさんのキノコが入っています。ポルキーニョは、それをテーブルの上に全部並べてみました。大きさはそれぞれですが、見た目はどれもおいしそうです。

「たくさん採れて良かったわね。それで、妖精が座っていたキノコはどれ?」

「えっ、妖精が座ってたキノコ?」

「そうよ。妖精が触ったものはね、妖精の魔法が降りかかってとてもおいしくなるのよ。バミットががんばってダンスしているのも、妖精のドングリを食べておいしかったからだと思うわ」

「そうなんだ。おいら、知らなかったよ。それじゃ、妖精と出会えたことは、運が良かったってことだね」

 ポルキーニョは、妖精にいたずらされて困ったことをすっかり忘れて喜びました。何よりも、特別なキノコをフィロにプレゼントできることがうれしかったのです。

「妖精が座っていたのはね、大きめなキノコなんだけど、全部じゃないかもしれない。だから、大きいのは全部フィロにあげるよ」

「やさしいのね、ポル」

 フィロは、ポルキーニョの鼻をやさしく撫でました。ポルキーニョが、照れながら体をくねらせます。

 ポルキーニョは大きいキノコをテーブルの上に置くと、あとはカゴに戻しました。カゴの中身が、半分ほどになりました。

 軽くなったカゴを背負ったポルキーニョは、バミットのところに戻ることにしました。たくさんダンスをして、魔法のドングリもだいぶ集まっていることでしょう。

「じゃあ、おいら行くね。モンブランケーキ、とてもおいしかったよ」

「秋だから、栗を使って作ってみたのよ」

「あ、モンブランケーキって栗なんだ」

「ええ、栗が手に入ったら、また作ってあげる」

「うん、楽しみ」

 魔法使いのフィロは、ポルキーニョが知らないことをいつも教えてくれます。ですが、魔法はなかなか教えてくれません。魔法は、特別なものなのです。たとえ、ポルキーニョが興味を持っていたとしても。

 

   ◇◆◇

 

 キノコの森に戻ったポルキーニョは、バミットがいる場所へ向かって歩きながら栗の木を探してみました。以前に地面に落ちていた栗のいがを踏んで痛い思いをしたことがあるので、気を付けながら探します。もちろん、頭上にも気をつけます。熟した栗は、イガごと枝から落ちてくるのですから。

 栗があんなにおいしいケーキになることを知ったのでたくさん拾いたかったポルキーニョでしたが、実際に見つけられたのはほんのわずかでした。

 割れたイガの中に、栗が見えています。ですが、イガの中から栗を取り出すやりかたがポルキーニョにはわかりませんでした。うっかり手で触れば痛い目にあうかも知れません。

 ポルキーニョは近くに落ちている枝を拾うと、イガの割れ目にひっかけるように差し込んで持ち上げました。それから、そっと移動させてカゴの中に落としました。

 全部で三つのイガをカゴに入れると、ほっとしたポルキーニョはクスリと笑いました。

「もし、妖精がいたずらに来ても、さすがにイガの上には座らないよね」

 ポルキーニョは、栗の木を見上げました。いくつかイガが開きかけているものが見えましたが、それは諦めることにします。木を揺することもできましたが、結果が恐ろしいのでやめておきます。

 やがて、ポルキーニョはバミットが妖精とダンスをしていた場所に到着しましたが、そこには誰もいませんでした。描きかけの絵や道具は敷物の上に置きっぱなしです。バミットが妖精から集めたドングリは、敷物の上で山になっていました。

「バミット! どこにいるの?」

 ポルキーニョは、周りを見渡しながら呼んでみました。すると、森の奥から声が聞こえました。

「おーい、ポル。こっちだよぉ」

 バミットの声です。ポルキーニョは、声がした方を見ましたが、姿は見えません。また、声がします。

「おーい、急いでこっちに来てくれよ。カゴを背負ったまま来てくれよ」

 何だか状況がわからないので、ポルキーニョは考えてみました。ダンスは、もう終わったのか。妖精たちは、どこへ行ったのか。そして、なぜバミットがポルキーニョを呼んでいるのか。

 妖精になにかいたずらをされて困っているのかもしれません。

「バミット、どうしたのさ。何か困ってるの? おいら、よくわからないよ」

 森の奥に向かって声をかけながら、ポルキーニョは少しずつ進んで行きました。すると、何かがポルキーニョの頭に当たりました。

「なんだろう?」

 ポルキーニョが上を見上げると、今度は別の声が聞こえました。

「まだよ」

「まだなの?」

「わたしも、投げたいわ」

 どうやら、妖精たちがまたいたずらしているのだと、ポルキーニョは思いました。それでも、バミットが心配なので、さらに奥へ進んで行くと、バミットの声がしました。

「みんな、今だ!」

 一斉に、ポルキーニョに向かってたくさんのドングリが飛んできます。

「なに、なんなの!」

  慌てふためいたポルキーニョが逃げ出そうとしますが、追いかけるようにドングリは飛んできました。

 木の上では、枝の上に並べられたドングリを妖精たちが次々と投げていました。ポルキーニョが背負うカゴにドングリが入ると、その妖精は「やった」と喜んで笑います。はずれると、「もう一回!」と言って、また投げます。

「痛い、痛い!」

 ポルキーニョが悲鳴をあげます。カゴに入らないドングリが、ポルキーニョに当たるのです。

 逃げるポルキーニョ。追いかけてドングリを投げつける妖精たち。そんな状況が、用意されたドングリがなくなるまでしばらく続きました。

 よろよろとポルキーニョが敷物のところまで戻って来ると、後ろからバミットが現れました。そして、カゴの中を覗くと満足げに言いました。

「やった、計画どおり。ほら、ポル。ドングリがたくさん集まったぞ」

「なんなのさ、どういうことなのさ!」

 ポルキーニョが怒りますが、バミットはあっけらかんとしています。 

「ダンスを終わりにしたら、妖精たちが不満そうだったんで、ゲームをしようと誘ったのさ。ポルが現れたらカゴを狙ってドングリを入れるゲームにね。妖精は楽しめるから喜ぶし、オレはドングリがさらに集められてうれしいし。な、いいアイデアだろ」

「はあ、もういいよ」

 ポルキーニョは、ため息をつくと、バミットがダンスで集めたドングリをカゴに入れ始めました。バミットがからかってくるのは、いつものことでした。怒っても、謝ってくることはありません。

 ドングリをすべてカゴに入れたあとは、敷物をたたんで絵の道具と一緒に脇に抱えます。

 キノコとドングリとイガ付きの栗。今日は、たくさん集まりました。秋の夕暮れは冷え込むからなのか、妖精たちはどこかへ行ってしまいました。

 ポルキーニョとバミットは、帰ることにしました。

「じゃ、家までよろしく! 俺は、カゴの中でのんびりするよ」

 バミットは勢いよく、ポルキーニョが背負うカゴに飛び込みました。ポルキーニョは慌てて止めようとしたのですが。間に合いませんでした。

 悲鳴をあげながらカゴから飛び出すバミットを見て、ポルキーニョは思いました。

 モンブランって、栗が何個必要なんだろう。

 

【おしまい】

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