満月の夜なのに、空が曇っていて月が見えないことはよくあるけれど、もしも綺麗な満月が見えたなら、すぐにジータのところへ行きましょう。おいしいシチューをもらうことができるから。

 

 ポルキーニョが困っているフワンを見つけたのは、フィロの家に行った帰りでした。今日は晴れていて雲も少ないので、満月が綺麗に見えるだろうと思いながら歩いていると、傾いた宝箱のそばでフワンが立ち尽くしていました。

 どうしたのかとポルキーニョがたずねると、いつも通りに宝箱を引っ張って道を進んでいると、突然車輪がはずれてしまい動くことができなくなったとのことでした。

 ポルキーニョは、宝箱を作った本人であるペンウッドを呼びに行くことにしました。フワンは、とても喜びました。

 ペンウッドは、直すための道具を持ってポルキーニョと共にフワンの所までやってきました。ところが、直すには時間がかかることがわかりました。

「ポル。私の代わりにジータからシチューをもらってきてくれないか。暗くなる前に、車輪を直してしまいたいんだ。大丈夫。ポルだったら運べるさ。鍋はジータが貸してくれるから、このまま今から行っておいで」

「おいらが行かないと、だめ?」

 ポルキーニョは、肩を落としてぼやきました。

 今日は天気が良く、おそらくは空に満月が見える日。ジータが作る月うさぎのシチューをもらいに行ける特別な日なのです。

 ポルキーニョだっておいしいシチューを分けてもらえるのはとてもうれしいのですが、夜にジータが住む森に行くのが嫌でした。昼間でさえ森の中は薄暗くて心細くなるのに、夜になったらどんなに恐ろしげに感じることか。

「ごめんよ、ポル。ぼくが、道の真ん中で宝箱に入って夜を過ごせばいいのかも知れないけれど、せっかくペンウッドさんが直してくれているのでね」

「ううん、別にフワンが悪いとかではなくてさ」

 ポルキーニョは、弱々しく首を振りました。

 いつもは、ペンウッドがジータの家まで行き、そして持ち帰った鍋いっぱいのシチューを、ポルキーニョもおいしくいただいていました。毎回、満月が見える日はとても楽しみな日になっていました。

 ちなみに、ポルキーニョは一度もシチューをもらいに行ったことはありませんでした。ジータからは、「月のルーを採るところを見せてあげるからおいで」と言われていて「そうだね」と答えるポルキーニョでしたが、実際に行ったことはありませんでした。

 ペンウッドが、作業の手を休めてポルキーニョに話しかけます。

「ポルはシチューをもらいに行くのが初めてだから知らないと思うけど、夜にジータの家でシチューをもらったあとは、森の中に光る道が現れるんだ。だから、暗くても足下がよく見えて、しっかり鍋を持ったまま帰れるんだよ。森から家までは、満月の明かりで十分道が見えるしね。まあ、いい機会だから、がんばって行ってきてごらん。まだ明るい今から森に向かえば、明るいうちにジータの家に着く。そしたら、夜までそこで待たせてもらえばいいじゃないか」

「だけど……」

 ペンウッドは作業に戻りましたが、フワンがじっとポルキーニョの方を見ています。ポルキーニョは、なんだかあまり情けない様子を見せるのも恥ずかしくなってきました。確かに、少し勇気を出せばできることなのです。

 それに、もしも行かなかった時、そのことをフィロが知ったならどう思うことでしょう。優しく同情してくれるかもしれませんが、ポルキーニョは自分のことを情けなく感じるに違いありません。

「わかった。おいら、行ってくる。シチュー、楽しみにしてて」

「ああ、よろしく」

 ペンウッドは作業の手を休めずに一言だけ言っただけでしたが、フワンはポルキーニョの肩に手を置いて励ましました。

「がんばってね、ポル。君なら、きっとできるさ」

「うん、おいら、がんばるよ!」

 ポルキーニョは、二人と別れるとジータの住む森に向かって走り出しました。太陽はまだ高い位置にあり、空には雲がほとんどありません。夜には、きっと満月がきれいに出ることでしょう。

 

◇◆◇

 

 勇気を出して薄暗い森の小径を進み、やがて目の前に現れた湖には、細長い小舟が浮かんでいました。傾いた夕日は、周りを囲む背の高い木々に隠されて見えませんが、赤らむ空には既に満月が光り始めていました。

 暗くなる前にジータの家に到着したポルキーニョは、ほっとしながらドアのベルを鳴らしました。

「やあ、ポル。今日は、君が来たんだね」

 ジータは、笑顔でポルキーニョを出迎えました。ですが、すぐには家の中に入れてくれませんでした。

「ポル。収穫したての野菜と、森の中で転んでついた土は、外で払っておくものさ」

 ポルキーニョは慌てて体に付いた土を払うと、照れ笑いをしました。暗くなる前にジータの家に着こうと夢中で走り何度も転んでしまったことが、ジータにはばれていたようです。

 ポルキーニョが家の中に通されると、テーブルの上には野菜が並べてありました。ジータは、ポルキーニョをイスに座らせると、包丁で野菜を切り始め、かまどに置かれた大きな鍋に入れていきました。

「私の畑で取れた自慢の野菜たちと、月のルーが合わされば、最高のシチューができあがるんだ。満月が空高く登るまでもう少し待たないとならないけれど、ポルキーニョ、君は我慢できるかい?」

「大丈夫さ」

 と言いつつ、ジータのシチューを何度も食べたことのあるポルキーニョは、そのおいしさを思い出して、待ちきれない気分になりました。すると、お腹が鳴りました。

「ははは、君はわかりやすいなぁ。ところで、今日はペンウッドさんはどうしたんだい?」

「フワンの宝箱の車輪が壊れてね、直しているんだ。だから、代わりにおいらが来たんだよ」

「ふーん。自分から、代わりを申し出るなんて、君は立派だな。でも、大丈夫かな。君は、その、わかりやすい性格だから。誘惑には、気をつけないとね」

「えっ、どういうこと?」

 ポルキーニョが首を傾げてたずねても、ジータは笑うだけでした。

 やがて、満月が空高く登ると、ジータは棒の付いた網と大きな袋を抱えて外に出ました。ポルキーニョもあとを追いかけます。

「それじゃ、これから湖の真ん中で満月のルーを採ってくるから、ポルキーニョはそこで待っててね」

 月のルーとは何なのか、ポルキーニョにはわかりませんでしたが、小舟に乗り込んで湖の奥へ進んでいくジータが、網で何かを採ろうとしていることは確かでした。

 空には、淡く黄色に輝く満月があり、その姿がそのまま湖面に写っています。ジータを乗せた小舟が、そこへ近づいていき停まりました。ジータの姿は小さくなりましたが、それでもポルキーニョがいる場所からでも、ジータが何をしたのかは見えました。

 湖面に写る満月が、ジータの棒の付いた網で小舟の上にすくい上げられました。

 ポルキーニョは驚いたものの、きっと湖面を波立たせたために月が写らなくなっただけなのだと思いました。ですが、どうにもおかしいのです。ジータの小舟がそこから移動してポルキーニョの方に向かって来るのにもかかわらず、いつまでたっても湖面に月が写らないのです。空を見上げれば、きちんと月が輝いています。湖面の月だけが消えてしまいました。

 湖畔に戻ってきたジータは小舟から降り、大きく膨らんだ袋を担ぎながらポルキーニョのそばにやってきました。もう片方の手には、空っぽの網を持っています。

「おまたせ、ポルキーニョ。どうだった、月ウサギが月のルーを採るところを見た感想は?」

「え、えーと、月がなくなっちゃたけど」

 聞かれても困ります。とにかく、ポルキーニョはジータが担いでいる袋の中身を見せてもらうことにしました。

 そっと開かれた袋の口から光があふれます。始めは眩しくてよくわかりませんでしたが、目が慣れると袋の中身がとろっとした黄色いものであることがわかりました。

「これが、月のルーさ。月うさぎの私にしか採れないけどね。さあ、家に戻ろう。これを使ってシチューを作ってあげる」

 何とも不思議な出来事でしたが、ポルキーニョはジータと一緒に家の中に戻ると、イスに座ってジータがシチューを作るのをじっと待ちました。

 大きな鍋に月のルーが注がれ、先に入れられた野菜と一緒に煮込まれていくと、ほどなく良い匂いがしてきます。ジータが作るシチューのおいしさは、何度も食べて知っています。あとは、がんばって空腹をこらえながら出来上がるのを待つばかりです。もちろん、食べるのはポルキーニョの家に持ち帰ってからなので、早く食べたい気持ちはまだまだ我慢しなくてはなりませんが。

 ポルキーニョは、待っている間にジータにたずねました。

「ねえ、ジータ。君は、魔法使いなの? だって、月をルーにするなんて」

 ジータは、鍋にフタをすると、火の加減を見ながらポルキーニョの横の席に座りました。

「私は、魔法使いではないよ。月のルーを採るのは、月うさぎの特技なのさ。まあ、野菜作りも私の特技だけどね。ポル、君にだって特技はあるでしょ?」

「おいらの特技?」

 ポルキーニョは考えましたが、何も出てきませんでした。そして、気が付きました。もともと、自分には特技がないことに。

「よく、考えてごらんよ」

 ジータに言われても、やはり思いつきません。フィロは、魔法。バミットは、絵を描くこと。ペンウッドは、物を作ったり直したり。フワンは……。

「あっ、フワンにも特技がない!」

 晴れやかな顔でポルキーニョは言いましたが、ジータに「ポルの特技の話だよ」とたしなめられ、曇った顔になりました。

「まあ、野菜の育て方だったら、いつでも教えるよ」

 ジータはそう言うと、かまどの火を消してから鍋のフタを開けて、中身をかき混ぜました。野菜がよく煮込まれて、ルーと溶け合い、とてもおいしそうにできあがりました。ポルキーニョも、匂いでそれがわかりました。

「はい、できあがり。ポル、そこの鍋を持ってここに来て」

 ポルキーニョは、ジータに言われたとおりに棚においてある空っぽの鍋を持って、ジータの横に行きました。    

「しっかり、持っててね。今からシチューを注ぐから」

 ポルキーニョが両手で持つ鍋に少しずつシチューが注がれる度、湯気と一緒にシチューの匂いが漂います。ポルキーニョは空腹を感じながらも、今はまだ、うっとりとした表情でそれを見つめるしかできません。

 鍋の中のシチューは見た目もすばらしく、まさに満月の明かりのように淡く輝いていました。そして、シチューを注ぎ終わった鍋にジータがフタをすると、シチューの輝きも匂いも、鍋の中に閉じこめられました。

「ふう。おいら、ここで食べていこうかな」

 ためらいもなく当たり前のように言ったポルキーニョに、ジータが注意します。

「だめだよ、ポル。シチューは、きちんと家に持ち帰って食べること。ペンウッドさんだって待っているでしょ」

 確かにその通りなのですが、ポルキーニョのお腹は鳴りっぱなしです。

「さあ、鍋のフタを紐で縛ろう。森の中を運ぶときに揺れてもこぼれないようにね。それから、この鍋は別の日に返してくれればいいからね」

 ジータは、ポルキーニョに言って鍋をテーブルに置かせると、フタと取っ手を紐で結んで固定しました。さすがに転んで鍋をひっくり返せば、シチューはこぼれてしまうかも知れませんが、普通に運ぶぶんには大丈夫でしょう。

「転ばないようにね」

 一応、ジータは言いました。

 ポルキーニョは鍋を両手でしっかり持つと、ジータと一緒に外に出ました。月明かりのおかげで、外は明るく感じました。一応、ポルキーニョは湖面を見てみましたが、月は未だに写っていませんでした。湖面にあった月は、ポルキーニョが持っている鍋の中です。

「ねえ、ジータ。森の中は暗いんでしょ。おいら、転んじゃうよ、きっと」

「大丈夫、きちんと明かりはあるんだ。さあ、案内してあげる」

 ジータに導かれるままに進むと、薄暗い森の中にほのかに光る場所が見えてきました。それは、ポルキーニョが通ってきた道とは違う森の奥まで続く光る道でした。正確には、道の両側が光っていました。

「月見草だよ」

 ジータが言いました。

 道の両側には月見草が並んで生えており、それがほのかに光って道を照らしています。

「きれい。おいら、こんなの見るの初めてだよ」

「これはね、月うさぎのシチューのおかげなんだ。つまり、それを作った私のおかげ。この森に生える月見草は、シチューを運ぶ人を導いて助けてくれる。この道をたどっていけば、無事に森から出られるよ。でもね、ポル。気をつけなくてはならないことがあるんだ。もしも、運んでいる途中で鍋のフタを開けてしまうと、その途端に月見草は光るのをやめて道は真っ暗になってしまう」

 ポルキーニョは、身震いをしました。鍋からはシチューの暖かみが伝わってきているものの、なんだか寒気がします。

「大丈夫だよ。だって、フタは紐で縛ってあるじゃないか。開けなければいいんでしょ。大丈夫だよ」

「そうかい。それならいいだけどね」

「それじゃ、おいら行くね。シチューありがとう」

 ポルキーニョは、鍋を両手でしっかりと持つと、月見草が照らしてくれる光る道をゆっくりと進み始めました。

 

◇◆◇

 

 森の中では、木々の枝や葉が空にある月の明かりをさえぎっています。ですが、ポルキーニョが鍋を持って歩く道だけは、ほんのり光る特別な場所でした。

 光っているのは月見草の花びらでした。道沿いに生えるたくさんの月見草の小さな黄色い花たちが、ほんのりと光って、まるで満月の明かりのようでした。

 そして、月ウサギのシチューの色にも似ていました。

 シチューのことを考えると、静かな森にポルキーニョのお腹のなる音が響きました。途中までがんばって歩いてきたポルキーニョでしたが、だんだん疲れてきて、両手で鍋を持ち続けるのも辛くなってきました。

「ちょっと、休憩しようかな」

 と言いましても、休めるようなところはありません。仕方なく、ポルキーニョは道に鍋を置いて座り込みました。

「はあ、疲れた。結構、歩いたよね。少し、休んでもいいよね」

 自分に言い聞かせるように呟きながら、何気なく鍋のフタに手をかけたポルキーニョは、慌ててその手を離しました。

 フタを開けてはいけません。フタを開ければ、月見草の光がなくなって、真っ暗な森の中を進まないとならなくなります。ポルキーニョは、ジータの言ったことを思い出して身震いしました。

 そんなときです。突然、近くのやぶが揺れました。ポルキーニョが驚いて振り向くと、そこにはランタンを手にした人物が立っていました。

「ごめん、驚かせてしまったね。私の名前はマキリタ」

 驚いて地面に尻餅をついてしまったポルキーニョでしたが、マキリタの声を聞いてはっと正気に戻ると、慌てて鍋に近づいて抱え込みました。

「だれっ!」

「だから、マキリタだよ」

「なんで、ここにいるの!」

「この近くで野営をしていたんだ。ほら、向こうにたき火の明かりが見えるだろ。それで、こっちのほうに、明かりが見えたものだから調べに来たんだ」

 ゆっくりと落ち着いた調子で話すマキリタに、ポルキーニョは少しだけ落ち着きを取り戻すことができました。しゃがみこんで鍋を抱えるのをやめて、立ち上がります。

「おいらは、ポルキーニョ。家に帰る途中」

 まだマキリタのことを信用していないポルキーニョは、考えながらゆっくりとしゃべりました。月ウサギのシチューのことは、黙っておくことにします。

「そうか。よろしく、ポルキーニョ。それで、君はなんで、そこに座っていたんだい?」

「疲れたから、休んでた」

「だったら、あっちにおいでよ。たき火の前で休むといい」

「え、あ、でも、おいら」

「ははは、そんなに用心深くならなくても大丈夫だよ。私も君と同じで疲れたから休んでいたんだ」

「ふーん」

 ポルキーニョは、急いでこの場を立ち去ろうとも思いましたが、まだ疲れていましたし、鍋を持ってさらに歩くには、休憩は必要でした。

 それに、少なくともマキリタはポルキーニョのシチューを狙っているわけではないようでした。話す様子は、優しげ感じます。ポルキーニョはマキリタの誘いを受けることにしました。

 たき火の前に落ち着いた二人は、いろいろとおしゃべりをしました。

マキリタは、(すばらしい棒)を探しながら旅をしているのだと言いました。(すばらしい棒)とは、森などに落ちているただの枝の中で、形や重さや手に持った具合とかが、すばらしくしっくりくるもののことだそうです。

 ポルキーニョには棒のことはよくわかりませんでしたが、一生懸命に説明してくれるマキリタは、とても楽しそうに見えました。

「おいらが、運んでいる物がなんだかわかる?」

 ふと、ポルキーニョはマキリタにたずねました。楽しい雰囲気の中で、何だか話したくなったのです。

「その鍋、大事そうだね」

「実はね、とってもおいしいシチューが入っているんだ。でもね、フタを開けると月見草の明かりが消えて帰り道がわからなくなってしまうんだ。だから、残念だけど中は見せられない」

「そうか……。どんな味か知りたかったな。でも仕方ないね」

 マキリタは残念そうに微笑むと、たき火に薪をくべました。しばらく二人は黙ってたき火を見つめました。

 ポルキーニョのお腹が鳴りました。マキリタのお腹もなりました。

「でも、もしかしたら、フタをちょっとだけずらして、味見をするだけなら大丈夫かも」

 大丈夫な根拠はどこにもありませんでしたが、ポルキーニョはシチューの誘惑に負けてしまいました。

「いいのかい?」

 マキリタが、心配そうにたずねます。

「きっと、大丈夫だよ」

 ポルキーニョは、鍋のフタを縛ってある紐をほどくと、そっと鍋のフタを横にずらしてみました。すると、鍋の中から月ウサギのシチューの輝きと匂いがあふれ出しました。もう、食べたい気持ちが収まりません。それでも、一応我慢して道の方を見てみると、月見草の明かりは消えていませんでした。

「はあ、良かった。やっぱり、フタを少しずらすだけなら大丈夫だったみたいだね」

「そうだね。良かった。ところで、これ使う?」

 マキリタが差し出したのは二つのスプーンでした。開けた鍋のフタの隙間から、スプーンを使ってシチューを味見しようと言うことのようです。

 それを察したポルキーニョは、まず自分がシチューをすくって食べました。

 

 「うーん、おいしい! やっぱり、ジータが作る月うさぎのシチューは最高だよ」

「それじゃ、私も」

 マキリタも、スプーンですくって食べてみます。

「おぉ、これはおいしい。こんなにおいしいシチューは食べたことがない」

 その後は、味見が何度も繰り返されて、気付いたときには鍋の中のシチューはだいぶ減ってしましました。

 ポルキーニョは、無言で鍋のフタを元に戻すと、紐で取っ手に縛り付けました。おいしいシチューをたくさん食べ、お腹いっぱいで幸せな気分ではあるのですが、悪いことをしたという気持ちは残ります。

「なんだか、私までたくさん食べてしまって悪かったね」

 マキリタが、申し訳なさそうに言いました。

「ううん。ペンウッドさんの分が残っているから大丈夫だよ」

「そうだ。お礼に、君にこの棒をあげるよ。私が見つけた(すばらしい棒)の一本さ。こんなにおいしいシチューを食べさせてくれたすばらしい君にこそふさわ

しい」

「ううん。これを作ったのはおいらじゃない。月うさぎのジータだよ」

「いやいや。私をシチューに出会わせてくれたのは君さ。だから、君がすばらしい」

「そうなんだ……。ありがとう。もらうよ」

 シチューを食べてしまって気落ちしているポルキーニョは、それ以上言うことなく、ぼそりと答えました。

 マキリタから棒を受け取ったポルキーニョは、手に持って軽く振ってみました。すると、確かに手に馴染むすばらしい棒でした。長さも、重さも、ポルキーニョにぴったりです。

 ですが、どんなにすばらしい棒も、今のポルキーニョの虚しい気持ちを支えてはくれることはありませんでした。

 

◇◆◇

 マキリタと別れたポルキーニョは、月見草が照らす道を歩きだしました。軽くなった鍋を持つのは容易く、あっという間に森を抜けることができました。

 すると、そこにはフワンがいました。

「おかえり、ポル。重くて大変だったでしょ。ほら、ぼくの宝箱、直ったんだよ。それでね、ペンウッドさんが、今晩は一緒にシチューを食べていきなよって言うからさ、ぼくもシチューを運ぶ手伝いをしにきたんだ。さ、宝箱の中に鍋を入れて帰ろう」

 ポルキーニョはフワンの宝箱に鍋をしまうと、シチューを楽しみにして浮かれるフワンの横をとぼとぼと歩きながら家まで帰りました。

「やあ、おかえり」

 ペンウッドが出迎えます。

 ポルキーニョはフワンの宝箱から鍋を取り出してテーブルに置くと、小さな声でぼそぼそと言いました。

「森の中でお腹を空かせている人がいたんで、この棒と交換でシチューを分けてあげたんだ。おいらは、ジータの家で少し食べてきたからいらないよ。おやすみ」

 ポルキーニョは、ペンウッドとフワンの二人で食べるには少なすぎるシチューの量を申し訳なく思いながら、(すばらしい棒)と一緒に自分の部屋へ行きました。

 

 月うさぎのジータは、ポルキーニョが帰ったあと、自分で作った野菜をほめながらシチューを食べていました。そして、ポルキーニョが家に帰る途中でシチューを食べないように、鍋のフタを開けると月見草の明かりが消えてしまうという嘘が役にたったことを願いながら、窓の外の満月を眺めたのでした。

 

【おしまい】

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