ポルキーニョは、午後のお茶の時間に間に合うように、魔法使いのフィロの家に向かっていました。

 草原からの風が、道沿いの草を揺らします。ポルキーニョは、広い草原を遠くまで見渡しました。もし、草原の向こうから誰かがやって来たら、きっと楽しい旅の話を聞かせてくれるに違いないと思いながら歩いていると、やがて川が見えてきました。道は、橋に続いています。

 フィロの家まではまだまだですが、少し寄り道をして、橋から川を眺めてみることにしました。

「何か、流れてこないかな」

 午後のおだやかな日差しが、水面できらめいています。ポルキーニョはしばらく橋の上で待ってみましたが、特別なものは流れてきませんでした。川に落ちた葉っぱなどが、川辺から伸びる低木の枝に引っかかっては、また流れていきます。

 そんな時でした。ポルキーニョは、川の中で何かが光っているのに気が付きました。でも、橋の上からでは、小さくてよくわかりません。

 ポルキーニョは、川に降りて確かめてみることにしました。滑らないように気をつけながら、土手の斜面を降りて川に入ります。

 小さな川魚たちが、慌てて逃げていきます。あまり波立たせないようにゆっくりと川の中を進み、ポルキーニョは光るものを片手でそっとすくい上げました。

 それは、ビー玉でした。中に白い模様があり、そんなに大きくはありません。ポルキーニョは、濡れているビー玉を服で拭くと、太陽にかざしながら呟きました。

「ただのビー玉か」

 ビー玉ならポルキーニョの家にもありますし、めずらしくもありません。川に落ちていた理由はわかりませんが、ポルキーニョにとって大した発見ではありませんでした。

 

 橋の上まで戻ると、フワンがやってきました。いつものように車輪の付いた宝箱を引っ張りながら、ゆっくりとやってきます。体が雲のように軽いので、あまりスピードは出ません。

「やあ、ポル。ここで、何をしているんだい?」

 ようやく橋の上にたどり着いたフワンがたずねます。

「フィロの家に行く途中さ」

「それなら、乗っていきなよ。ぼくもフィロの家まで行く途中なんだ。届け物があるんでね」

 フワンの宝箱の中に宝物は入っていませんが、その代わりにみんなから頼まれた物を中に入れて運ぶようなことをしていました。

 毎日みんなの家に行って声をかけ、運ぶ物がないときはのんびりと宝箱を引っ張りながら散歩をします。

 もちろん、運が良く、偶然にも宝物を見つけた時には、きちんと宝箱にしまうつもりです。

「さ、乗りなよ」

 フワンが宝箱の上に乗るように勧めますが、ポルキーニョはフィロの家に遅れたくはありませんでした。どう考えても、フワンが移動するスピードは、ポルキーニョが歩くより遅いのですから。

「いいよ、おいら自分で歩いていく」

「そうかい。でも、わかっているさ。ぼくが遅いからでしょ? だったら心配ないよ」

 フワンは宝箱から小さな缶を取り出すと、中からキャラメルを一つ取り出して口に入れました。

「ぼくね、キャラメルを食べると、なんだか力が出てくるんだよ。なんだか、体の中がもくもくするっていうか」

「おいらが、歩くよりも速く進めるの?」

「もちろんだよ」

 そう言って、フワンは進み出しました。確かに、さっきよりは速くなっています。ポルキーニョがフワンの横を歩いてみると、遅いとは感じませんでした。

「さあ、ポル。乗りなよ」

 

  ポルキーニョは、フワンがそこまで言うのならと、宝箱の上に乗せてもらうことにしました。

「そうだ。このビー玉、川で拾ったんだけど、宝箱に乗せてもらうお礼にフワンにあげる。宝箱の中に入れておいて」

「もらってもいいけど、ポルの大事なものではないの? せっかくきれいなビー玉を見つけたのだから、ポルの宝物にすればいいのに」

「フワン、ただのビー玉は宝物じゃないよ。まあ、もし魔法のビー玉だったら別だけどね」

 ポルキーニョは勝手にフワンの宝箱のフタを開けてビー玉を放り込むと、その上によじ登りました。

 座るより仰向けに寝てみるといいよとフワンが言うので、実際にそうしてみると目の前に広がる空がとても青く、雲がとても白く感じられました。

 フワンが進み出すと宝箱の上はほどほどに揺れましたが、逆にそれが心地良く、このままフィロの家まで乗っていくことにしました。

◇◆◇

 

 草原の中の道を進み、月うさぎのジータが住む森の横を通り過ぎ、ポルキーニョとフワンは丘が多い場所へやってきました。

 魔法使いのフィロの家は、もうすぐです。

「おいら、ここらへんで降りるよ」

「おや、そうかい。宝箱の上で寝ていても、だらしなくは見えないと思うけど」

「違うよ」

 ポルキーニョは気まずそうな顔をすると、「乗せてくれてありがとう」と言って、フワンの前を歩き出しました。

 やがて、小高い丘の上に建つフィロの家が見えてきました。丘に生える草の緑と、空の青さ間で、家の白い壁が太陽に照らされてきれいに光っています。

 歩いてきた道から細い小径へ曲がり、ポルキーニョとフワンはフィロの家の前までやってきました。

 木の柵で囲まれた庭の入り口にはバラのアーチがあり、よく手入れがされた庭にはアネモネやガーベラなどたくさんの色の花が咲いていて、玄関へ歩いて行く人を出迎えてくれます。

 フワンはバラのアーチの所で待つと言うので、ポルキーニョだけ庭を抜けて玄関のベルを鳴らしました。

 扉が開いて、赤毛の少女が現れました。魔法使いのフィロです。

 家の中からは、甘い香りがしてきました。今日のお菓子は何だろうと楽しみに思いながら、ポルキーニョはフィロにあいさつをします。

「ごきげんよう、フィロ。今日もフィロに会えて、おいらとてもうれしいよ。庭の花もとてもきれいだね」

「私も、ポルに会えてうれしいわ。あら、フワンも来ているのね」

 フィロはオレンジ色の上着の袖を揺らしながら、フワンに手をふりました。

「途中で会ったんだ。何か、フィロに渡すものがあるって言ってたよ」

 ポルキーニョが伝えると、フィロは家の中に戻って小さな袋を持ってきました。

「ポル、ちょっとここで待っててね」

 フィロは、庭を通ってフワンの所へ向かいました。ポルキーニョが玄関で見ていると、フワンが宝箱から大きめな箱を取り出してフィロに渡しました。箱を受け取ったフィロが代わりに小さい袋を渡すと、フワンはそれを受け取って、ポルキーニョに手を振りながらどこかへと行ってしまいました。

 フィロが、箱を抱えて戻ってきます。

「おまたせ、ポル。さあ、中でお茶にしましょ」

「その箱は何?」

 ポルキーニョは、家の中へ入りながらたずねました。

「ブルーベリーよ。フワンに、採ってきてと頼んでおいたのよ」

 フィロはポルキーニョをテーブルのイスに座らせると、箱を開けて中を見せました。箱いっぱいにブルーベリーが入っています。こんなにたくさん集めるのは大変だっただろうと、ポルキーニョは思いました。

「お菓子作りに使うの?」

「そうよ。ブルーベリーパイなんてどうかしら。今度、作ってみるわね」

 フィロは、優しくポルキーニョの鼻を撫でました。うれしそうに、ポルキーニョが身をくねらせます。

「でもね、ブルーベリーって魔法の材料にも使えるのよ。だから、こんなにたくさん頼んだわけ」

「おいら、パイも好きだけど、魔法も好き」

 ポルキーニョが一番好きなのはフィロですが、さすがに照れくさくて直接は言えません。ですので、自分なりに他の言い方を考えて、たくさん伝えるようにしていました。庭の花のこと、お菓子のこと、魔法のこと。フィロへのほめ言葉を、いつも考えています。

 すると、少しずつですがそれらに詳しくなっていくのでした。そのことをフィロが笑顔で感心してくれることが、ポルキーニョにとっては、とてもうれしいことでした。

「さあ、ポル。紅茶をどうぞ」

 フィロはポルキーニョの前にティーカップを置いて、紅茶を注ぎました。紅茶の香りが広がります。ポルキーニョが、角砂糖を2個入れてスプーンでかき混ぜていると、フィロが花柄の白い皿を運んできました。

「ポル。今日のお菓子はプディングよ」

「わあ、おいしそう。フィロが作るのは、とてもしっとりとしていて甘いから、おいら大好きだよ」

 紅茶とプディングと、楽しいおしゃべり。フィロとの幸せな時間がゆっくりと流れていきます。

「そうだ、フィロ。おいら、今日ビー玉を川で拾ったんだ。でも、ただのビー玉だった。魔法のビー玉だった良かったのに」

「そう……、残念だったわね。でも、なぜ川に落ちていたのかしら?」

「わかんない」

 落ちていた理由に興味がないポルキーニョでしたが、フィロは何やら考えているようでした。

「ねえ、ポル。私にそのビー玉を見せてくれないかしら。魔法のビー玉かどうか、調べてあげる」

「えっ!」

 ポルキーニョは、驚いて声をあげました。もしも、魔法のビー玉だったなら、どんなに素敵なことでしょう。

「あっ」

 ビー玉は、フワンの宝箱の中です。

「どうしたの、ポル?」

「実はね、フィロ。ビー玉はフワンの宝箱の中に預けてあるんだ。見せるの、明日でもいい?」

「いいわよ」

 魔法使いのフィロは、ポルキーニョの鼻を撫でながら優しげに微笑みました。

 

◇◆◇

 

 暗くなるまでには、まだ時間があります。フィロの家をあとにしたポルキーニョは、フワンを探すことにしました。ですが、行き先がわかりません。

 フワンは気ままに移動するので、道に沿って行くとも限りませんし、もしかしたらどこかの森の中で昼寝をしているかもしれません。しかも、気ままなフワンには家は無いので、夜になったら車輪の付いた宝箱の中で寝るだけです。時間を気にしないで、どこへでも行けるのです。そんな生活を、ずっと前からしていました。

 ポルキーニョは、悩みました。そして、考えました。どこに行けば、フワンに会えそうか。

 橋の上で会った時、フィロへの届け物があること以外に、フワンはどこかへ行くとは言っていませんでした。そうなると、誰かの家に行って、運ぶものはないかと聞いているのかもしれません。

 月うさぎのジータの家か、小さな小さな絵描きのバミットの家か。または、ポルキーニョの家に行って、ペンウッドに会っているのか。

 ここから一番近いのは、月うさぎのジータの家です。ポルキーニョの家まで続く道の途中にある森に住んでいます。小さな絵描きのバミットの家は、逆方向です。そこまでフワンを探しに行くと、夜になってしまうことでしょう。

 ポルキーニョは、川で見つけたビー玉が魔法のビー玉かどうか早く知りたい気持ちでいっぱいでした。できれば、今日中にフワンを見つけたいものです。

 もう一度考えてみます。そして、ポルキーニョは月うさぎのジータの家に行ってみることに決めました。フワンがどこにいるのかわからないのであれば、近いところから探してみることが、時間を無駄にしない良い方法だと思えたからです。

 

 森の中に入ると、空は木々の隙間から見えるだけになりましたが、太陽の光が木々の葉を照しているので、ほんのりとした明るさはありました。

 ポルキーニョは、森の中に一本だけある道を歩いて行きました。この道を歩いて行けば迷うことなく月うさぎのジータの家に着くことができるのですが、ポルキーニョはそれでも何だか不安になるのでした。ジータの家に行く時は、いつもそうです。

 ジータの家は湖のそばにあるのですが、それが見えてくるまでには森の中をしばらく歩かなくてはなりません。道の両側には、たくさんの木や草が生えていて遠くまでは見渡せません。そのことが、たった一人で森の中にいる寂しさを余計に感じさせるのです。

 ポルキーニョは、走ることにしました。途中で転んでも、がんばって走ります。

 やがて、湖が見えてきました。その辺りだけ木が少なく、空が広がって明るくなっています。ポルキーニョは、ほっとして走るのをやめました。

 湖の畔には、ジータの家が見えました。ジータの姿も見えます。畑作業をしているようで、長い耳が揺れています。

 ポルキーニョは、側まで行ってジータに声をかけました。

「こんにちは、ジータ。ポルキーニョだよ」

「お、ミルフィーユ君じゃないか」

 畑仕事の手を休め、ジータは立ち上がって笑いました。足もとには、収穫したばかりの人参が並べてあります。

「おいらは、ミルフィーユじゃない。そして、ペペロンチーノでもない」

「ははは、ひどいな。先に言っちゃうなんて」

 ジータは湖で手を洗うと、ズボンに挟んだ手ぬぐいで手を拭きながら笑いました。ポルキーニョも笑いました。さっきまでの寂しい気持ちが嘘のようです。

「それで、今日はどうしたんだい。君のことだから、何か無くして探しているとか、失敗したことを内緒にしているとか、そんなところかな」

「ひどいよ、ジータ。おいらは、フワンを探しているだけ。最近、ここに来た?」

「来てないなあ。でも、来るかもしれないよ。たった今収穫した人参を目当てにね。君もそうだろ?」

「だから、おいらはフワンを探してるんだって」

「どうして、フワンを探しているんだい」

「ビー玉を預けているんだ」

「ふーん。どんなビー玉?」

「えっ」

 ポルキーニョは、すぐに答えられませんでした。ただのビー玉だと言ったら、ジータにからかわれそうです。ですが、魔法のビー玉だとも言えません。まだ、フィロに確認してもらっていないのですから。

「どうしたんだい、ポル。ふつうのビー玉ってことかい?」

 ポルキーニョより背が低いジータが、ポルキーニョの側に来て顔をのぞき込みます。

「おいらの宝物さ。ビー玉はおいらの宝物だから、大切なんだ」

 思いがけず(宝物)という言葉が口から出たことに、ポルキーニョ自身も驚きました。そして、困りました。フィロが調べてくれてもただのビー玉だった時、さすがにそれを宝物にはできません。

「なるほど、宝物だから、フワンの宝箱に入れてあるわけだね」

「そう、そうなんだよ」

 慌ててポルキーニョは、頷きました。

「ちょっと待ってて」

 ジータは収穫したばかりの人参を湖で洗うと、ポルキーニョに差し出しました。

「私の宝物は、立派に育ったこの野菜たちさ。君の宝物も今度会うときに見せてくれな」

「うん」

「それから、森の中は走らないほうがいいよ。木の根にひっかかって転んだりするからね」

 ジータは、土で汚れたポルキーニョの胸元を指差しました。

「えへへ」

 ポルキーニョはジータからニンジンを受け取ると、お礼を言ってから来た道を歩き出しました。人参をかじってみると、とてもおいしく感じました。そして、さすがジータの宝物だと思いました。

 

◇◆◇

 

 ポルキーニョが自分の家に着く頃には、もう日が暮れていました。残念ながらフワンは見つかりませんでした。また明日探すことにします。

「ただいま」

 返事がありません。一緒に住んでいるペンウッドは出かけているようです。

 ポルキーニョは部屋の灯りを付けると、ベッドに寝ころびながら、ビー玉のことを考えました。

「もし、魔法のびー玉だったら、本当においらの宝物にしよう」

 呟きながら、ポルキーニョはクスクス笑いました。そして、その時にはみんなに自慢しようと思ったとき、フワンの顔が頭に浮かびました。

 もしも、魔法のビー玉だったとしたら、フワンは自分の宝箱に入れたいと欲しがるかもしれません。しかも、ポルキーニョはビー玉をフワンにあげてしまったことを、改めて思い出しました。

「こまったなあ」

 ため息をつきます。返してもらうには、どうしたらよいのか。魔法のビー玉かも知れないと、正直に言おうか。ただのビー玉をフィロが欲しがっていると言ってみようか。

 ポルキーニョが、ベッドの上でもがきながら悩んでいると、ペンウッドが帰ってきました。ベッドから立ち上がって、出迎えます。

「おかえりなさい、ペンウッドさん」

「ただいま、ポル。遅くなったね。帰り道の途中でバミットと会って、少し話してたんだ」

「ふーん、絵の話?」

 ポルキーニョの口調が、あからさまにそっけなくなります。バミットのことが苦手なのです。

 絵を描くのがとても上手なのは認めますが、会うたびに高い木の枝から小さな体を乗り出して威張ってくるのです。普段は穏やかなポルキーニョも、つい大きな声で言い返してしまいます。

 ペンウッドが、ポルキーニョの様子を見てため息をつきます。

「まあ、絵を飾る場所の話かな」

 ペンウッドはそこまで言いかけると、ポケットからビー玉を取り出して、棚に置いてある小さな箱に入れてから、ポルキーニョに手渡しました。

 箱は、ポルキーニョが作った箱でした。ペンウッドが作ったフワンの宝箱を真似て暇つぶしに作ってみたのですが、特に入れるものもなかったので、飾っておいたのです。

「この、ビー玉って……」

「いいでしょ。やっぱり、この箱にぴったりだ。バミットにもらっんだよ。舐めてもおいしくないし、いらないからくれるって言うんでね。だから、私が持っていたあめ玉と交換してきたんだ。ポルキーニョが作った箱に入れるのにちょうどいいなと思ってね」

 ポルキーニョは、小さな宝箱からビー玉を取り出して、じっくり見てみました。中の模様といい、ポルキーニョが川で拾ったビー玉によく似ています。

「ねえ、ペンウッドさん。バミットは、このビー玉を誰かからもらったとか言ってた?」

「ん? それは特に言ってなかったな。なんで、そんなこと聞くの?」

「ううん。何だか、どこかで見たことがあるビー玉だなと思ったんで」

 フワンが、バミットにあげたのでしょうか。それとも、似ているだけのビー玉なのか。ポルキーニョは悩みましたが、フワンかバミットのどちらかに聞いてみないとわからないと思いました。

 とりあえず、ビー玉を小さな宝箱に戻してフタをします。きちんとしまうと、何だか特別なビー玉のように感じました。

 

◇◆◇

 翌日の朝、フワンがポルキーニョの家を訪れました。

「おはよう、ポル。ジータが野菜をポルの家に持って行ってほしいと言ったので、運んできたよ」

 フワンは、宝箱のフタを開けて中を見せました。人参と大根とトマトが、たくさん入っています。採れたての、ジータの宝物です。

「運んできてくれて、ありがとうフワン。おいら、うれしいよ。それと、えっと、昨日は宝箱に乗せてくれてありがとう。そ、そういえば、おいらが入れたビー玉って、まだそこにあるの?」

 ポルキーニョは、にこにこしながらフワンの宝箱をのぞき込みましたが、野菜が邪魔でよく見えません。

「ビー玉? 昨日、ポルがくれたビー玉のこと? あれなら、バミットが欲しがったからあげちゃったよ。昨日、フィロのところでポルと別れたあと、フィロからもらったキャラメルを持ってバミットの家に行ったんだ。ブルーベリーはバミットと一緒に集めたから、お礼のキャラメルも分けようと思ってね」

 フワンの話を聞いて、ポルキーニョは安心しました。やはり、ペンウッドからもらったビー玉は、ポルキーニョが川で見つけたビー玉だったのです。

「フワン、ビー玉のことは気にしないで。おいらが、昨日勝手に宝箱に入れたから、フワンが迷惑していないかなって思っただけだから」

「そうかい、別に迷惑はしてなかったよ、ポル。でも、ただのビー玉だったから、欲しがったバミットにあげちゃった」

「そうだよね、ただのビー玉だものね」

 そう言ってポルキーニョは、フワンから野菜を受け取りながら笑いました。あとは、フィロにビー玉を見てもらうだけです。

 

◇◆◇

 

 お茶の時間に会わせてフィロの家を訪ねたポルキーニョは、小さな宝箱に入ったビー玉をフィロに見せました。

「だめよ、ポル。お茶の時間は、きちんと過ごすこと。まずは、紅茶とお菓子をいただきましょ」

 今日のお菓子は、ホットケーキでした。ポルキーニョは落ち着かない気持ちのまま、バターの乗った香ばしいホットケーキを食べ始めましたが、ビー玉のことが気になってしまい、何だか味わった気になれませんでした。

 フィロが、ため息をつきます。

「もう、ポルったら。調べてあげる。ビー玉を見せてちょうだい」

 ポルキーニョは、うれしさを隠せない表情で立ち上がると、小さな宝箱ごとフィロに渡しました。

 フィロは小さな魔法の杖を取り出すと、指にはめていた指輪をはずして杖に差し込みました。それから、ゆっくりと呪文を唱え、杖をビー玉にかざします。

 ポルキーニョが見ている目の前で、ビー玉がほんのりと光り始めました。何が起こるのかと期待して見つめていると、ビー玉の光はゆっくりと消えていきました。

 

 「フィロ、どうだった?」

 たまらず、ポルキーニョが声をかけると、フィロは静かに答えました。

「よかったわね、ポル。このビー玉は、魔法のビー玉よ」

「やった!」

 ポルキーニョは、イスから飛び跳ねて喜びました。嬉しくてたまりません。

「それで、どんな魔法なの。フィロ、教えて」

「落ち着いてちょうだい、ポル」

 フィロは、ポルキーニョの鼻を撫でました。

「私には、魔法のビー玉だということはわかっても、どんな魔法なのかはわからないの。だから、ポルにはそのビー玉を大事にしておいてほしいの。きっといつか、どんな魔法かわかるから」

 ポルキーニョは、黙ったまま首を傾げました。なんだか予想していた結果と違いました。もっとわかりやすい結果だったら良かったのですが、なんと言ったらいいのかわからずに立ち尽くします。

「ポル。どうして私が魔法のビー玉かもしれないと言ったのはね、このビー玉が川に落ちていたからなのよ。ポルも、見つけた時に不思議だと思わなかった? なんでこんな所に落ちているのだろうって」

「まあ、そうだけど」

「その理由は二つ考えられるわ。一つはね、誰かが落としたということ。そして、もう一つはビー玉が自分で落ちたってこと」

 ポルキーニョが、また首を傾げます。フィロの言っていることが、よくわかりません。

「不思議に感じることには、魔法が関係していることが多いわ。でも、はっきりとはわからない。魔法って、そんな感じのものなのよ」

 優しく微笑むフィロに見つめられながら、ポルキーニョは考えます。つまり、どういうこと? おいらのビー玉は、すごいの? 宝物にしていいの?

「ねえ、フィロ。おいら、このビー玉をどうしたらいいんだろ?」

「ポルが、どんな魔法なのかいろいろ試してみればいいのよ。魔法には実験はつきもの。がんばって、ポル」

 大好きなフィロが、応援してくれています。ビー玉を小さな宝箱に入れてみれば、さらに特別なものに感じます。ポルキーニョは悩んで考えて、そして決めました。

「おいらのビー玉は、魔法のビー玉。おいらの宝物!」

 

【おしまい】  

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